THE HINOKI : interview 02
[地方と世界、実用的なものと精神的なもの]
c : 鳥取に拠点を移して活動されていますが、地方へ移住することに迷いはありませんでしたか?
H : どこにいても仕事が出来る時代だと感じていましたし、鳥取には何より素晴らしい自然があり、住みよい環境があります。ですので移住することにはあまり迷いはありませんでしたね。

c : 古くから民芸が盛んな地方でもありますよね。陶製ボタン、木製ボタンなど、地域の職人と共に作ることもされています。
H : 以前より鳥取の陶器や木の皿などを日常的に使用していたり、手仕事に興味を持っていました。ある日、地域の工芸展に出向いた時に作家と出会い、一緒に何かをつくりたいとボタンと鞄の取っ手の制作をお願いしました。微力ですが、そうしたことが物作りにおけるより良い循環の一部になればと思っています。
c : 服の周辺の事も気になるのですが、個人的にまず驚いたのがブランドテーマです。
「精神的な風景、感覚を、しんに受けとり、気づきが在るさま」と聞いて、衣服としての実用性と、そこをはみ出す部分、そのバランスの美しさの意味がわかりました。
H : 服をつくっているわけではなく、服を通して見える世界をつくりたいと思っています。私たちの活動のさまざまな要素において、心まで、しんに伝わる何かがあれば幸いです。

c : そうした部分は毎回のイメージ写真にも感じます。目に見えないものを探るような、意識に直接呼びかけるような写真ですよね。
H : わかりやすくないものに秘める美しさを求めています。
写真家はシーズンによってさまざまなのですが、共通して、ファッション写真ではなく自身の作品を追求している方にお願いしています。
c : ロケーションも初めがアメリカの僻地の自然、その後は人口と自然が中途半端に混じり合うどこにでもありそうな風景。ローカルな視点と広い視点の振れ幅の中に、不思議な開放感がありました。それがTHE HINOKIさんの姿勢にも呼応するような気がしました。
H : 特別な場所ではなく、名前のない道や、どこか素っ気ないような場所に興味があります。どこの国に居ても共通してあるような場所で、そこに居ると安心する、境のないような場所。何気なく通過する場所や当たり前に映る自然が、写真によって表情を持ち、ある力を帯びることに悦びを憶えます。

[時間、空間の中の衣服]
c : 最後になりますが、衣服に対して思い浮かぶ言葉を書いてみました。
もし気になる言葉があればひとことお願いします。
「消費されない衣服。着継がれる衣服。時を経て美しくなるようなもの。」
「 物質として美しい衣服。その循環。」
H : 衣服やモノは生み出された以上、燃やしたり溶かして消さない限り地上に存在します。その責任をもった生産活動を行いたいと思っています。
「土着的な衣服、そうではない衣服、その両方。」
H : 土着的な衣服 (民族衣装や、古い手づくりの衣服) に、あるべき姿を感じる時があります。THE HINOKIの服もいつか着古された時に、そうなっていれば良いと思っています。
「普遍性、非日常的な高揚感、どちらも併せ持つ衣服。」
「 精神的な開放感、意識を拡張してくれる衣服。」
H : お守りのような衣服。
「(建築などと同様に)公共的なものとしての衣服。」
「 街や自然に溶け込み、その風景を美しくするようなもの。」
H : 誰かにとって美しい風景の一部だと想ってもらえると嬉しいです。
あるいは、衣服から景色をつくり出すことが出来れば。
c : どうもありがとうございました。
THE HINOKIの服の内と外にある、そうした景色のようなものを感じていただけるような展示になればと思っています。

*THE HINOKI展
今年の秋冬コレクションと同時に、衣服周辺の物も展示いたします。
以下、檜さんからのコメントになります。
ー
・一点物 (タイの手紡ぎ・手織布を用いた衣服)
タイが好きで何年かに一度訪れます。
気候がよく、食事も美味しく、多くの手仕事が残っています。何より人が優しい。
今春に訪れたチェンマイという町で出会った、綿の手紡ぎ・手織布で男女のジャケットを2点あつらえました。
・染料に使用する植物
ボタニカルダイに使用している、植物(ログウッド・ヒノキ)を個体と液体の状態で展示します。今回は、どのような工程を経て1枚の衣服が出来上がるのかについて迫るため、使用している素材やパーツもお見せしたいと思います。
・関連作家の商品 (玄瑞窯・小林挽物店)
陶器や木のボタン・鞄の持ち手を製作していただいている作家が普段制作している商品を展示販売します。衣服に使用しているモノとの関連性をお楽しみください。
・写真
写真家・頭山ゆう紀による、秋冬コレクションの写真も展示します。
頭山氏とは2016年 春夏・秋冬 の1年を通して、ある男女を追った作品を制作しました。
来春には、それらをまとめた本の刊行を予定しています。


(終)